2020年2月19日、政府は出入国管理及び難民認定法の改正案(以下「改正法案」といいます。)を了承する旨閣議決定しました。ですが、私たちは、改正法案の特に以下の点について、非常に強い危惧を覚えます。そこで、ここに意見を表明します(以下条文はいずれも改正法案のものです)。
改正法案では、収容に代わる監理措置(44条の2、52条の2)の新設が提案されています。
これは、2019年10月に設置された、法務大臣の私的懇談会である出入国管理政策懇談会の下の収容・送還に関する専門部会(以下「専門部会」といいます。)が 2020年6月に発表した提言(以下「部会提言」といいます。)で、「収容令書・退去強制令書の発付後から送還時まで収容することが原則とされる現在の制度を改め」、収容代替措置を検討すべきとしたこと(同51頁)を受けたものと考えられます。
この方向性自体は歓迎すべきことですが、今回の改正法案の監理措置は、全くもって不十分であり、これまでの仮放免許可制度のマイナーチェンジでしかありません。
1998年以来、日本の入管収容は、1 収容の必要性を明確な要件としていないこと、2 収容の決定にあたり司法による効果的な関与がないこと、3 退去強制令書による収容は上限の定めがなく、無期限収容が可能であることの3点について、度々国連の各種人権条約実施状況を監視する委員会から勧告を受けてきました。 2020年8月には、国連の恣意的拘禁作業部会からも同様の指摘を受け、その指摘に沿った法改正をするよう求められています。
ですが、改正法案の監理措置は、これらのいずれも充たすものではありません。
監理措置は、逃亡や証拠隠滅、不法就労のおそれの程度その他の事情を考慮して判断されます(44条の2第1項、52条の2第1項)。「その他の事情」という曖昧な要件に、例えば前科があるとか難民申請を繰り返しているなどの要素を読み込んで監理措置を認めないこともできます。現在の仮放免と代わりません。さらに、その判断は入管に委ねられたままです。監理措置が認められなければ無期限収容が続くのも変わりありません。
また、監理措置は、監理人となる者に監理対象となる外国人の生活状況などの届出義務を課しています(44条の3第5項、52条の3第5項義務を課し、これを怠ったときには過料の制裁を科すものとしています(77条の2第2号・同4号)。これまで被収容者の仮放免保証人となってきていた支援者や弁護士に報告義務を課すことは、当該外国人との間で利益相反の問題も生じます。支援者・弁護士と対象となる外国人との関係は相互の信頼を基礎にしています。それが、過料の制裁に怯えながら、依頼者の動静について、入管当局に届出をしなくてはならなくなったらどうでしょう。基礎となるのは信頼ではなく、支配・被支配の関係性に変容してしまいます。
長期収容問題を解決するためには、私たちが2019年12月18日付「長期収容『「送還忌避者』問題解決のための共同提言」で述べたとおり、・収容の上限を定めること・ 収容の目的・要件を送還の準備のために必要不可欠な場合と法律に明記し、かつ司法審査を導入することによって実現すべきです。
改正法案では、これまで不透明との批判が強かった在留特別許可制度について、考慮要素を列挙し(50条1項5号)、手続規定を整備しました。
ですが、無期若しくは1年を超える実刑判決を受けた者については、原則として対象外とされ、「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合のみ許可の可能性があるものとされました(50条1項柱書き。仮滞在許可を受けた者の在留資格取得に関する 61条の2の5第1項柱書きも同じ)。
平成21年7月改訂の「在留特別許可に係るガイドライン」では、「重大犯罪等により刑に処せられたことがあること」が「特に考慮する消極要素」とされ、その例として「凶悪・重大犯罪により実刑に処せられたことがあること」「違法薬物及びけん銃等、いわゆる社会悪物品の密輸入・売買 により刑に処せられたことがあること」が挙げられていました。
今回の改正法案は、重大犯罪で実刑を受けた者ですら、「特に考慮する消極要素」の一要素に過ぎなかったものを、1年を超える実刑判決を受けた者(被害額がごく僅かな万引きであっても執行猶予期間中に再犯をしてしまった場合、これに該当しうることになります。)についても原則として排除するというもので、あまりに厳しすぎます。法務省出入国在留管理庁が公表している事例でも1年以上の実刑判決を受けた者に在留特別許可が認められた事例は複数あります。 9年以上服役したタイ人女性について在留特別許可を認めなかった入管の判断が覆された裁判例もあります。実刑判決を受けたことは、その長短や犯罪の内容も含めて、あくまで、消極要素 の一つとして考慮するものに留めるべきです。
また、 50条2項では、その対象者を収容令書によって収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人に限定しています。仮放免許可(54条)を受けた者について対象外となる可能性があります。難民申請者に対する在留特別許可も仮滞在許可を受けた者に限定されています(61条の2の5第1項柱書きも同じ)。
さらに、50条3項では、退去強制令書の発付を受けた者は在留特別許可の申請ができないものとしています。部会提言では「退去強制令書の発付後に在留を特別に許可することが相当となるような新たな事情が生じた場合など、送還を拒むことについてやむを得ない事情があると認められる場合は、関係部門が連携し、従前の処分の変更を含め、適切な対応をすること」(同22頁)に反するものとなりました。現在の実務上も、退去強制令書発付後に事情変更が生じた場合、法務大臣等が従前の処分を撤回し、在留特別許可を認める「再審情願」という運用が広く行われ、これによって在留資格を認められた例は多数存在します。改正法案50条3項の存在は、再審情願の運用を否定するか、あるいは著しく狭めるものに繋がることを危惧します。
そこで、50条1項柱書きのただし書、50条2項及び3項、61条の2の5第1項柱書きは削除し、退去強制事由に該当する者であれば誰でも(退去強制令書発付後でも)、在留特別許可 の申請権を認めるべきです。
改正法は、難民申請者の送還停止効(61条の2の9第3項)について、原則として3回目以上の申請者(61条の2の9第4項1号)には認めないとしています。
しかし、日本の難民認定率が1パーセントに及ばず、「難民鎖国」と揶揄されていることは、多方面から指摘され、非難されているところです。日本では、シリア難民やミャンマーのロヒンギャのような、諸外国であればその属性のみが認められればできれば難民として認定されているような難民申請者についても、ほとんど難民として認定されていません。日本の難民認定制度は、明らかな機能不全を起こしており、保護すべき難民を保護できていないのです。
難民申請者が同じ理由で複数回申請を繰り返さなくてはならないのは、帰国した場合には迫害の危険があるからです。日本政府は難民条約の解釈に独自の見解を持ち込み、諸外国であれば保護されるべき申請者の多くを保護していません。 3回目以後の申請者について送還停止効に例外を設けるのであれば、まず、保護すべき難民申請者を保護していると評価できる実績を作ることが大前提です。難民認定の判断に誤りがあった場合には、本国に送還された後、投獄されたり、死刑になったりと、取り返しの付かない結果が生じる危険があります。「10人の真犯人を逃すとも、人の無辜を罰するなかれ」というのは、刑事裁判における有名な格言ですが、難民認定実務では、真の難民は一人として誤って不認定にし帰国させてはならないのです。
提言34頁では、平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」の提言を踏まえた施策を併せて実施することが提言されていますが、改正法案にはその点が何ら反映されていません。補完的保護対象者の保護規定はできましたが(61条の2第2項)、現行の人道的配慮保護規定でも同様の対応は可能です。補完的保護対象者の定義は、難民条約に定める政治的意見等の5つの理由以外の理由で、「迫害を受けるおそれがあるという十分理由のある恐怖」 を有する者とされています(2条3号の2)。日本の難民認定数が少ないのは、難民条約上の5つの理由に該当するかどうかよりも、むしろ「迫害を受けるおそれがあるという十分理由のある恐怖」の認定が厳しすぎるからです。改正法案では人道的配慮による在留特別許可の条項が削除されており(現行法61条の2の2第2項)、現在よりも保護の範囲が狭まる危惧すらあります。
送還停止効の見直しをするのであれば、まずは、難民の保護を国際標準並とすることが先決です。 61条の2の9第4項1号は削除すべきです。
また、改正法案は、無期若しくは3年以上の実刑判決に処せられた者又は暴力的破壊主義者等(61条の2の9第4項2号)についても、送還停止効を認めないものとしています。
難民条約33条2項は「締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」については、送還禁止の対象外とすることを容認していますが、改正法案にある無期若しくは3年以上の実刑判決だけでは、「締約国の安全にとって危険」であるとか、「特に重大な犯罪について有罪の刑が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」とは言えません。難民条約違反の疑いが強いです。専門部会でもこの点は全く議論になっておらず、立法事実も存在しません。少なくとも前段は削除すべきです。
改正法案55条の2第1項は、自ら退去する意思がない旨を表明している者や過去に嘘を言ったり実力行使をして送還を妨害し、再び同様の行為に及ぶおそれがあるため、送還することが困難な者に対して退去命令を発することができるものとしました。
また、52条12項は、退去強制令書の発付を受けた者を送還するために必要がある場合には、その者に対し、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為として法務省令で定める行為をすべきことを命ずることができるとしました。
そして、この命令に従わない者は、1年以下の懲役・禁錮もしくは20万円以下の罰金(併科あり)という刑事罰の対象となっています(72条6号・ 8号)。
しかし、改正法案では、55条の2第1項の退去命令については、送還停止効の認められた難民申請者の場合は退去命令の効力が停止されるものの(同条2項)、52条12項の旅券発給申請等命令については停止効がありません。ですから、送還停止効の例外とされる難民申請者だけでなく、送還停止効が認められる難民申請者にまで旅券発給申請の命令をすることができます。刑罰による威嚇のもとで、強制送還の準備を進めることが可能となります。これは、ノン ルフールマン原則(難民条約33条1項)に反します。また、強制送還が家族生活に対する保護 (自由権規約17条1項、23条2項)、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条1項)などの人権諸条約が保障する権利を侵害するような場合には、執行停止の裁判を得ない限り退去命令の停止効は認められません。
そもそも、退去強制拒否罪を設け、これにより処罰をされたとしても、それでも帰れない者は、刑事手続で拘置所、刑務所に行き、その後また入管収容施設に送られ、そこでまた送還を拒否すれば刑事手続...というように、無限のループに入ることになります。専門部会では、その間に費やされるコストについての検討もされておらず、改正法案提出までもそのような議論・検討がされたとは考えられません。
本来、強制送還という直接強制が可能な権能を有しているのに、刑事罰による抑止力に頼らなくてはならないというのは国家権能の機能不全を宣明するようなものです。諸外国に倣い、自発的な帰国に促すための諸方策(たとえば、帰国後に使える生活費を交付するなど)を、コスト面も含めて検討するのが先決です。言うことを効かないから罰を与えればよいという提言は、刑法の謙抑性に反します。
さらに、刑罰の前提となる退去命令の要件は、対象者の本国が「退去強制令書の円滑な執行 に協力しない国以外の国として法務大臣が告示で定める国に含まれていないこと」(55条の2第1項1号)とされています。また、旅券発給申請等命令は「その他送還するために必要な行為として法務省令で定める行為」を命じることができるとされています(52条12項)。国会制定の法律ではなく、告示で退去命令の対象者が決まったり、法務省令で命令の内容が決めることができてしまうのです。これに反した場合には、刑事罰の対象となるというのは、罪刑法定主義に反します。
退去強制拒否罪等(72条6号・8号)の創設には絶対反対します。
私たちは、2019年12月18 日付「長期収容・『送還忌避者』問題解決のための共同提言」及び2020年6月30日「収容・送還に関する専門部会提言に対する共同声明」で、収容の上限を定めるなどの収容法制の改正、難民認定の適正化、一斉正規化の実施などの方策を述べました。
これら共同声明で危惧したとおり、改正法案は、排除・締め付け強化の方向性が際立っています。受容による解決も有効かつ有力な選択肢として検討すべきです。
- 監理措置(44条の2,52条の2)ではなく、収容ができる場合の要件を限定し、司法が審査する制度にすることが必要です。
- 在留特別許可の対象者限定(50条1項柱書き及び同3項、61条の2の5第1項柱書き)に反対します。
- 送還停止効の例外(61条の2の9第4項)を認めるべきではありません。
- 退去強制拒否罪など(72条6号・8号)は削除すべきです。
1 監理措置(44条の2、52 条の2)はダメです!
改正法案では、収容に代わる監理措置(44条の2、52条の2)の新設が提案されています。
これは、2019年10月に設置された、法務大臣の私的懇談会である出入国管理政策懇談会の下の収容・送還に関する専門部会(以下「専門部会」といいます。)が 2020年6月に発表した提言(以下「部会提言」といいます。)で、「収容令書・退去強制令書の発付後から送還時まで収容することが原則とされる現在の制度を改め」、収容代替措置を検討すべきとしたこと(同51頁)を受けたものと考えられます。
この方向性自体は歓迎すべきことですが、今回の改正法案の監理措置は、全くもって不十分であり、これまでの仮放免許可制度のマイナーチェンジでしかありません。
1998年以来、日本の入管収容は、1 収容の必要性を明確な要件としていないこと、2 収容の決定にあたり司法による効果的な関与がないこと、3 退去強制令書による収容は上限の定めがなく、無期限収容が可能であることの3点について、度々国連の各種人権条約実施状況を監視する委員会から勧告を受けてきました。 2020年8月には、国連の恣意的拘禁作業部会からも同様の指摘を受け、その指摘に沿った法改正をするよう求められています。
ですが、改正法案の監理措置は、これらのいずれも充たすものではありません。
監理措置は、逃亡や証拠隠滅、不法就労のおそれの程度その他の事情を考慮して判断されます(44条の2第1項、52条の2第1項)。「その他の事情」という曖昧な要件に、例えば前科があるとか難民申請を繰り返しているなどの要素を読み込んで監理措置を認めないこともできます。現在の仮放免と代わりません。さらに、その判断は入管に委ねられたままです。監理措置が認められなければ無期限収容が続くのも変わりありません。
また、監理措置は、監理人となる者に監理対象となる外国人の生活状況などの届出義務を課しています(44条の3第5項、52条の3第5項義務を課し、これを怠ったときには過料の制裁を科すものとしています(77条の2第2号・同4号)。これまで被収容者の仮放免保証人となってきていた支援者や弁護士に報告義務を課すことは、当該外国人との間で利益相反の問題も生じます。支援者・弁護士と対象となる外国人との関係は相互の信頼を基礎にしています。それが、過料の制裁に怯えながら、依頼者の動静について、入管当局に届出をしなくてはならなくなったらどうでしょう。基礎となるのは信頼ではなく、支配・被支配の関係性に変容してしまいます。
長期収容問題を解決するためには、私たちが2019年12月18日付「長期収容『「送還忌避者』問題解決のための共同提言」で述べたとおり、・収容の上限を定めること・ 収容の目的・要件を送還の準備のために必要不可欠な場合と法律に明記し、かつ司法審査を導入することによって実現すべきです。
2 在留特別許可等の対象者を限定しないで下さい!
改正法案では、これまで不透明との批判が強かった在留特別許可制度について、考慮要素を列挙し(50条1項5号)、手続規定を整備しました。
ですが、無期若しくは1年を超える実刑判決を受けた者については、原則として対象外とされ、「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合のみ許可の可能性があるものとされました(50条1項柱書き。仮滞在許可を受けた者の在留資格取得に関する 61条の2の5第1項柱書きも同じ)。
平成21年7月改訂の「在留特別許可に係るガイドライン」では、「重大犯罪等により刑に処せられたことがあること」が「特に考慮する消極要素」とされ、その例として「凶悪・重大犯罪により実刑に処せられたことがあること」「違法薬物及びけん銃等、いわゆる社会悪物品の密輸入・売買 により刑に処せられたことがあること」が挙げられていました。
今回の改正法案は、重大犯罪で実刑を受けた者ですら、「特に考慮する消極要素」の一要素に過ぎなかったものを、1年を超える実刑判決を受けた者(被害額がごく僅かな万引きであっても執行猶予期間中に再犯をしてしまった場合、これに該当しうることになります。)についても原則として排除するというもので、あまりに厳しすぎます。法務省出入国在留管理庁が公表している事例でも1年以上の実刑判決を受けた者に在留特別許可が認められた事例は複数あります。 9年以上服役したタイ人女性について在留特別許可を認めなかった入管の判断が覆された裁判例もあります。実刑判決を受けたことは、その長短や犯罪の内容も含めて、あくまで、消極要素 の一つとして考慮するものに留めるべきです。
また、 50条2項では、その対象者を収容令書によって収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人に限定しています。仮放免許可(54条)を受けた者について対象外となる可能性があります。難民申請者に対する在留特別許可も仮滞在許可を受けた者に限定されています(61条の2の5第1項柱書きも同じ)。
さらに、50条3項では、退去強制令書の発付を受けた者は在留特別許可の申請ができないものとしています。部会提言では「退去強制令書の発付後に在留を特別に許可することが相当となるような新たな事情が生じた場合など、送還を拒むことについてやむを得ない事情があると認められる場合は、関係部門が連携し、従前の処分の変更を含め、適切な対応をすること」(同22頁)に反するものとなりました。現在の実務上も、退去強制令書発付後に事情変更が生じた場合、法務大臣等が従前の処分を撤回し、在留特別許可を認める「再審情願」という運用が広く行われ、これによって在留資格を認められた例は多数存在します。改正法案50条3項の存在は、再審情願の運用を否定するか、あるいは著しく狭めるものに繋がることを危惧します。
そこで、50条1項柱書きのただし書、50条2項及び3項、61条の2の5第1項柱書きは削除し、退去強制事由に該当する者であれば誰でも(退去強制令書発付後でも)、在留特別許可 の申請権を認めるべきです。
3 送還停止効の例外(61条の2の9第4項)は削除すべき!
改正法は、難民申請者の送還停止効(61条の2の9第3項)について、原則として3回目以上の申請者(61条の2の9第4項1号)には認めないとしています。
しかし、日本の難民認定率が1パーセントに及ばず、「難民鎖国」と揶揄されていることは、多方面から指摘され、非難されているところです。日本では、シリア難民やミャンマーのロヒンギャのような、諸外国であればその属性のみが認められればできれば難民として認定されているような難民申請者についても、ほとんど難民として認定されていません。日本の難民認定制度は、明らかな機能不全を起こしており、保護すべき難民を保護できていないのです。
難民申請者が同じ理由で複数回申請を繰り返さなくてはならないのは、帰国した場合には迫害の危険があるからです。日本政府は難民条約の解釈に独自の見解を持ち込み、諸外国であれば保護されるべき申請者の多くを保護していません。 3回目以後の申請者について送還停止効に例外を設けるのであれば、まず、保護すべき難民申請者を保護していると評価できる実績を作ることが大前提です。難民認定の判断に誤りがあった場合には、本国に送還された後、投獄されたり、死刑になったりと、取り返しの付かない結果が生じる危険があります。「10人の真犯人を逃すとも、人の無辜を罰するなかれ」というのは、刑事裁判における有名な格言ですが、難民認定実務では、真の難民は一人として誤って不認定にし帰国させてはならないのです。
提言34頁では、平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」の提言を踏まえた施策を併せて実施することが提言されていますが、改正法案にはその点が何ら反映されていません。補完的保護対象者の保護規定はできましたが(61条の2第2項)、現行の人道的配慮保護規定でも同様の対応は可能です。補完的保護対象者の定義は、難民条約に定める政治的意見等の5つの理由以外の理由で、「迫害を受けるおそれがあるという十分理由のある恐怖」 を有する者とされています(2条3号の2)。日本の難民認定数が少ないのは、難民条約上の5つの理由に該当するかどうかよりも、むしろ「迫害を受けるおそれがあるという十分理由のある恐怖」の認定が厳しすぎるからです。改正法案では人道的配慮による在留特別許可の条項が削除されており(現行法61条の2の2第2項)、現在よりも保護の範囲が狭まる危惧すらあります。
送還停止効の見直しをするのであれば、まずは、難民の保護を国際標準並とすることが先決です。 61条の2の9第4項1号は削除すべきです。
また、改正法案は、無期若しくは3年以上の実刑判決に処せられた者又は暴力的破壊主義者等(61条の2の9第4項2号)についても、送還停止効を認めないものとしています。
難民条約33条2項は「締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」については、送還禁止の対象外とすることを容認していますが、改正法案にある無期若しくは3年以上の実刑判決だけでは、「締約国の安全にとって危険」であるとか、「特に重大な犯罪について有罪の刑が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」とは言えません。難民条約違反の疑いが強いです。専門部会でもこの点は全く議論になっておらず、立法事実も存在しません。少なくとも前段は削除すべきです。
4 強制送還拒否罪等(72条8号・55条の2第1項、72条6号・52 条12項)は削除すべき!
改正法案55条の2第1項は、自ら退去する意思がない旨を表明している者や過去に嘘を言ったり実力行使をして送還を妨害し、再び同様の行為に及ぶおそれがあるため、送還することが困難な者に対して退去命令を発することができるものとしました。
また、52条12項は、退去強制令書の発付を受けた者を送還するために必要がある場合には、その者に対し、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為として法務省令で定める行為をすべきことを命ずることができるとしました。
そして、この命令に従わない者は、1年以下の懲役・禁錮もしくは20万円以下の罰金(併科あり)という刑事罰の対象となっています(72条6号・ 8号)。
しかし、改正法案では、55条の2第1項の退去命令については、送還停止効の認められた難民申請者の場合は退去命令の効力が停止されるものの(同条2項)、52条12項の旅券発給申請等命令については停止効がありません。ですから、送還停止効の例外とされる難民申請者だけでなく、送還停止効が認められる難民申請者にまで旅券発給申請の命令をすることができます。刑罰による威嚇のもとで、強制送還の準備を進めることが可能となります。これは、ノン ルフールマン原則(難民条約33条1項)に反します。また、強制送還が家族生活に対する保護 (自由権規約17条1項、23条2項)、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条1項)などの人権諸条約が保障する権利を侵害するような場合には、執行停止の裁判を得ない限り退去命令の停止効は認められません。
そもそも、退去強制拒否罪を設け、これにより処罰をされたとしても、それでも帰れない者は、刑事手続で拘置所、刑務所に行き、その後また入管収容施設に送られ、そこでまた送還を拒否すれば刑事手続...というように、無限のループに入ることになります。専門部会では、その間に費やされるコストについての検討もされておらず、改正法案提出までもそのような議論・検討がされたとは考えられません。
本来、強制送還という直接強制が可能な権能を有しているのに、刑事罰による抑止力に頼らなくてはならないというのは国家権能の機能不全を宣明するようなものです。諸外国に倣い、自発的な帰国に促すための諸方策(たとえば、帰国後に使える生活費を交付するなど)を、コスト面も含めて検討するのが先決です。言うことを効かないから罰を与えればよいという提言は、刑法の謙抑性に反します。
さらに、刑罰の前提となる退去命令の要件は、対象者の本国が「退去強制令書の円滑な執行 に協力しない国以外の国として法務大臣が告示で定める国に含まれていないこと」(55条の2第1項1号)とされています。また、旅券発給申請等命令は「その他送還するために必要な行為として法務省令で定める行為」を命じることができるとされています(52条12項)。国会制定の法律ではなく、告示で退去命令の対象者が決まったり、法務省令で命令の内容が決めることができてしまうのです。これに反した場合には、刑事罰の対象となるというのは、罪刑法定主義に反します。
退去強制拒否罪等(72条6号・8号)の創設には絶対反対します。
5 結び
私たちは、2019年12月18 日付「長期収容・『送還忌避者』問題解決のための共同提言」及び2020年6月30日「収容・送還に関する専門部会提言に対する共同声明」で、収容の上限を定めるなどの収容法制の改正、難民認定の適正化、一斉正規化の実施などの方策を述べました。
これら共同声明で危惧したとおり、改正法案は、排除・締め付け強化の方向性が際立っています。受容による解決も有効かつ有力な選択肢として検討すべきです。
2021年2月19日
特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク
全国難民弁護団連絡会議
日本カトリック難民移住移動者委員会
入管問題調査会
全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓い
特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ
特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク
全国難民弁護団連絡会議
日本カトリック難民移住移動者委員会
入管問題調査会
全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓い
特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ
(6団体)